排卵障害の治療(排卵誘発法)

  1. 排卵はどのようにおこるのでしょう?

    排卵誘発法のご説明をする前にどうして排卵がおこるかを簡単に説明します。まず脳の内に視床下部というホルモンの中枢があります。まずここからGnRHというホルモンが分泌され、視床下部のすぐ下にある脳下垂体を刺激します。すると脳下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)の2種類の卵巣刺激ホルモンが分泌されます。これら2種のホルモンの刺激をうけ卵巣から卵が排出されます。

  2. 排卵がおこらないとどうなりますか?

    排卵がおこらないと妊娠はしません。排卵がおこらないときは必ず月経の異常を伴います。例えば何ヵ月も月経がない(無月経)とか、あるいは生理が遅れがちのような場合は稀発月経といい、排卵するために長い日数がかかっていることが推定されます。あるいは排卵を伴っていない出血(無排卵性出血)のこともあります。頻繁に出血があったり、また長期間持続するような場合も無排卵の可能性があります。このような状態を排卵障害といいます。

  3. 排卵誘発法とはどういう方法ですか?

    妊娠が成立するためには排卵ななくてはまりません。しかしこの排卵がスムーズにおこらないか、あるいは全く排卵しないため、妊娠しない場合に内服薬や注射で排卵をおこさせる方法が排卵誘発法です。

  4. どういう場合、排卵誘発法の対象になりますか?
    1. 全く排卵がおこらないため月経が3ヵ月以上停止している場合(無月経)
    2. 月経が始まってから排卵するまで20日以上の日がかかりそのため月経がおくれがちな場合(稀発月経)
    3. 通常自力で排卵がおこっているものの、さらに排卵誘発剤を使い多くの卵の排卵をおこさせて妊娠に結びつける場合もあります。これを調節卵巣刺激(controlled ovarian stimulation(COS))といいます。体外受精や顕微授精を行うときは多くの良好卵を採取するためにCOSを用います。
  5. 排卵誘発剤にはどんな薬がありますか?
    1. クロミフェン(クロミッド™)・レトロゾールなどのエストロゲン受容体モジュレーター

      ホルモンの中枢である視床下部に働きかけて排卵が起こるようにする薬です。比較的軽症の排卵障害に用いられます。

    2. リコンビナントFSH製剤(ゴナールエフ™など)

      直接卵巣に働きかけて排卵をおこす薬です。ペン型注射器を用いて自己注射ができます。クロミッドが無効な多嚢胞性卵巣症候群や、体外受精、顕微授精を行う際に使用します。

    3. hMG製剤(フェリングHMG™など)

      同じく直接卵巣に働きかけて排卵をおこす薬です。より重症な排卵障害の場合や、体外受精、顕微授精を行う際に使用します。

  6. 排卵誘発剤の副作用で注意すべきことは何ですか?

    主な副作用は多胎妊娠と卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome: OHSS)です。

    1. 多胎妊娠

      多胎妊娠(ふたご、みつご)は単胎妊娠に比べて早産になったり妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)を発症したりするリスクが高くなります。1つだけ排卵するより複数排卵したほうが妊娠率が高くなると安易に考えられがちですが、性交タイミング指導や人工授精の場合、安全で健康な妊娠出産を目指すためにはできるだけ単胎妊娠を目指すことが重要です。
      排卵誘発剤を用いる場合、必ず1つだけ排卵するようにコントロールすることは不可能ですが、できるだけ複数排卵しないように最適な薬剤、投与量を用います。

    2. 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

      hMGやリコンビナントFSHは直接卵巣を刺激し排卵をおこします。多数の卵胞が発育すると過剰な排卵が起こり、多胎の原因となり、時にOHSSの原因となります。OHSSが発症すると卵巣が大きく腫れたり、腹腔内に水がたまったりする(腹水)などの現象がおこります。OHSSが起こらないようにするには、必要最小限の排卵誘発剤を用い、こまめに超音波検査を行って卵胞の発育状態をチェックします。またOHSSの兆候が現れた場合を治療薬を用いて重症化を予防します。

  7. 排卵障害の例
    1. 多胎妊娠

      PCOSとは?

      1. 月経不順
      2. 卵巣が多嚢胞(超音波検査で卵巣に胞状卵胞が異常に多く認められること)
      3. 血中LH(黄体化ホルモン)が高値でFSH(卵胞刺激ホルモン)が正常、または男性ホルモンが高値

      の特徴がみられる代表的な排卵障害です。
      月経から排卵までの期間が異常に長くなることにより不妊の原因になります。

      PCOSの診断は?

      1. a.ホルモンの測定

        血液中のLH、FSHの値を測定します。LHが異常に高値であればPCOSの疑いがあります。

      2. b.超音波検査

        経腟超音波で卵巣の状態を調べると、PCOSの場合、小さな胞状卵胞(嚢胞)が左右の卵巣に多数観察されます。

      妊娠を希望する場合、PCOSの治療は?

      1. a.クロミフェン療法

        PCOSでも軽症の場合クロミッド™によりコンスタントに排卵できる場合があります。

      2. b.クロミフェンと他剤の併用(プレドニン™、メトホルミン併用法)

        クロミッドとともにプレドニン™(ステロイド)や、メトホルミン(インスリン抵抗性改善薬)を併用すると、クロミッド単独では排卵しない場合でも排卵することがあります。

      3. c.ゴナドトロピン療法(低用量リコンビナントFSH療法)

        リコンビナントFSHを毎日少量ずつ自己注射し卵巣を刺激して排卵を誘発する方法です。比較的高い排卵効果が得られ妊娠率も良好ですが、多胎妊娠やOHSSのリスクを抑えるため慎重な治療が必要です。

      4. d.腹腔鏡下卵巣多孔術

        腹腔鏡(内視鏡)を用い、両側の卵巣の表面にレーザーをあて小さな孔をあける(ovarian drilling法)ことによりPCOSの排卵障害が軽くなる治療法です。(手術を行う医療機関で行われています)

    2. 視床下部性・下垂体性無月経

      排卵をコントロールしているLH(黄体化ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌されなくなることにより排卵しない状態です。
      視床下部性無月経の主な原因としては過剰なダイエットによる体重減少、下垂体性無月経の主な原因としては脳下垂体手術などがあげられます。hMG製剤を用いたHMG-HCG療法により排卵誘発を行います。

    3. 早発卵巣不全(Premature Ovarian Insufficiency:POI)

      現在、日本人の閉経年齢の平均は50才位ですが、閉経状態が40才未満でおこってしまう状態を早発閉経、あるいは早発卵巣不全(POI)といいます。卵巣の機能が停止しているため卵巣から分泌されるホルモンが低く、逆に卵巣を刺激する性腺刺激ホルモン(LH、FSH)が脳下垂体から過剰に分泌されています。

    4.  POIには治療法がありますか?

      POIになると、排卵は容易ではありません。若年者で妊娠を希望する場合は先端治療であるIVA(体外活性化、in vitro activation)による治療(一部の大学病院で行われており、当科では行っておりません)が有望な選択肢の一つです。
      古典的な治療法としては分泌過剰になっているゴナドトロピンの分泌を抑えるために卵胞ホルモン剤と黄体ホルモン剤を周期的に投与するカウフマン療法を行い、ホルモン剤による月経周期を作ります。このカウフマン療法を3‐4周期行い、その後休薬すると排卵がおこる場合がまれにあります。先行してゴナドトロピンの分泌を抑制するGnRH agonist を使用する方法もあります。

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